虫送りの火祭り

 日本の伝統行事として広く知られる「虫送り」は、豊作や五穀豊穣を祈願する祈祷行事で、南部町西伯地区では鴨部や阿賀集落で恒例行事として親しまれています。昔は全国各地で行われていたようですが、農薬が普及した現代では町づくりなどの活性化イベントとして取り組まれている事が多いようです。いくらの郷では中山間地の活性化を模索していますが、中山間地ならではの工夫を凝らした虫送り行事に取り組み、住む人に元気と誇りを持って、やる気を出していただく事を目的に取り組みました。


 昔は松脂を使っていたようですが、現代は灯油を使ったり、廃油を燃料とするようです。卒業生のS君、Y君も手伝いに来てくれて、空き缶に灯油や芯詰めをしました。職場や日々の暮らしの状況を話しながらの作業ですが、S君には彼女も出来たようです。よく見ると表情に自信が漲っていました。

 虫送りの道具一式は阿賀集落のご厚意でお貸しいただきました。竹の杭250本、缶を入れる竹の筒、油を燃やす空き缶です。この日は多くのボランティアに駆けつけて頂き、あっという間に準備が終わりました。

 ここは農道の両側に杭を立てていますから、灯りに囲まれ一番の華やかな場所になるだろうネ等と話も弾みます。夜が楽しみです。

 林道横の法面を開削した平場が、火祭りを一望できる絶好の場所です。

空き缶の中に3分の一位の灯油を入れて、芯を2本束ねて入れてありますが、夜の11時ごろにも燃え続けていましたから、5時間以上も持つようです。

 準備が終わるとスタッフ全員で前祝いです。ビフテキ用の上等なお肉が準備され、40人もの参加者は美味しい焼き肉に大喜びでした。

 虫送り行事の企画責任者Tさんの挨拶で6時過ぎにいよいよスタートです。集落の皆さん、ボランティア、そのご家族、子供たち、カメラマンなど沢山の人で賑わいました。これから繰り広げられる火の祭典に皆が期待でワクワクしています。

 少しうす暗くなった6時半ごろに高台から花火が打ち上げられて、一斉に点火されました。高台が本部ですが発電機で投光器を灯して本格的です。


 一斉に点火されましたが、息をのむほど美しい光景に一同が感嘆の声を口々に上げています。以下にその光景の一部を紹介しますが、残念ながら写真では伝えきれないものがあります。揺らぐ炎、浮かび上がる棚田の輪郭など実に幻想的です。近年、これほどまでに感動した光景は覚えがありません。スライダーでご紹介しましょう。


 薄明かりの中で浮かび上がる棚田の風景に、言葉も出ずに感動している所長です。今まで見てきた平場での虫送りとは全く違った立体的な風景で、異なった味わい、趣があります。棚田も捨てたものではないと、再評価しました。


 上2枚の写真が横続きで、この度の虫送りのほぼ全景になります。下の左側写真がウッドデッキからの眺望、4枚目が下から眺めたものですが、周囲が完全に暗くなってからの眺めが最高でした。2枚目は小さな堤の水面に灯りが映っています。

虫送りの夜に一句、「映るとも灯りおもわず 映すとも水も思わず 里山の池」

(後水尾天皇、剣客塚原卜伝、沢庵和尚の歌など諸説あり-うつるとも月もおもわず うつすとも水もおもわぬ 広沢の池―を引いて)


 スライダーで写真を紹介します。上から見下ろすよりも下から見上げる方が感動的で、暗くなった方がより美しいと皆で話しました。



 縦に長い写真の上空に明るい星が見えます。白鳥座だと思いますが、きれいに輝き虫送り行事を見下ろしています。真っ暗な空も良いものですね。

場の雰囲気とか炎の揺らぐ様など、写真ではお伝え出来ない多くの感動の要素がありますが、来年も開催しますので是非ともお越し頂き、体全体で実感して頂きたいと思います。

集落の参加者も山奥の棚田が美しく輝く姿に感動しきりでしたが、日頃は高齢化、後継者不足など中山間地の抱える課題に埋もれて、活力を失いつつありました。

いくらの郷が活動を始めた事で地域が元気で賑やかになりつつあります。自らが楽しみ、誇りを持って他人に語るようにならなければ発展はありません。この気持ちを共有したいものです。最後は花火で打ち上げとなりました。


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