S君の研修レポート

   S君は米子市在住で、3月下旬から7月上旬までいくらの郷へ通い始めました。初めは簡単な軽作業からスタートしましたが、終わりの頃は重労働も難なくこなし、7月上旬には元の体調に戻って卒業していきました。卒業してからも、得意のイノシシの解体などで顔を見せてくれる好青年です。レポートを頼んでいたところ、詳細なレポートが届きましたのでご紹介します。


以下に約4カ月間の「いくらの郷」での研修によってもたらされた、心身の変化について述べていきたいと思います。

 

私が「いくらの郷」でお世話になったのは、まだ寒さ厳しい日も多い3月初めから、真夏の暑さを感じる 7月頭までの期間でした。いくらの郷では農林業や大工仕事などの屋外作業、農産品加工や道具整備などの屋内作業 、禅、ヨーガ・エネルギー療法による心身の健康増進、講話や地域の方々との交流など、本当に多種多様な経験をさせていただきました。

多くはこれまで全く経験したことはなかったものでしたが 、坂本所長さん・山野理事長さんの熱いご指導、スーパーボランティアの青砥さん・森岡さんのご支援、指導員の西岡さん・津田さん・牧田さんの毎日のサポートのおかげで、徐々に慣れることができ、楽しんで研修に通わせていただき、名残り惜しくも無事に卒業して復職につなげることができました。

そして、多くの人にとってその日常生活の中でなかなか経験し難い、貴重で稀有な体験をさせていただいた日々は、自分が想像すらしていなかった数々の変化をもたらしてくれました。研修中から感じていたものや現在になって気づいたもの、家族や友人・同僚から指摘されたものなどを中心に、私に起こった代表的な「体と心の変化」を紹介させて頂きたいと思います。

 

はじめに身体面の変化について述べていきます。

第一に当然ですが体力は大きく向上しました。

 この点は二月下旬にいくらの郷に通わせていただこうと決めた時に、最も改善を期待したことでした。当時は仕事を休み療養して、ようやく日常生活レベルまで心身の状態が回復してきていましたが、明らかな体力・持久力の低下を感じていました。

自身でも昼夜逆転しないよう生活リズムを維持し、ウオーキングなどもしていましたが、就業レベルまで体力を戻すことが如何ともし難く、焦りと不安を感じていました。そこでいくらの郷では、雨の日を除き屋外作業での研修を基本として下さいました。寒い日も暑い日も田んぼや畑、山や森林の中で、農林業や大工仕事などの屋外作業を経験させて頂きました。1日の運動はせいぜいウオーキング 30分×2回であった人間が、卒業時には炎天下で午前・午後とも外作業が出来るまでになったことは自分自身驚きしかありません。今現在、以前と比べて明らかに疲れにくく、体を使わないとむずむずするほどです。また想定外の恩恵ですが、ここ数年は冬や季節の変わり目には必ず風邪をひいていたのですが、今年は一度も引いていないのも体力向上のおかげだと思います。

 

第二に肉体的な強さが増しました。

「暑さ・痛み・辛さなど体のキツサへの耐性が増した。」といえば分かりやすいかと思います。

先日、業務中に一連の作業の流れで、A4紙の段ボール箱を400個ほど運ぶことがあり、二日半にわたる作業かつ力仕事でした。若い後輩を含め同僚から「えらくないですか」「腰が痛くないですか」と散々心配され、「体力と力がやばい!」とも言われました。体を使えば当然疲れはあり、若干腰や肩がだるくもなりますが、私本人は「この程度は所長と二人で 4mオーバーのヒノキを山の斜面で運び下したことに比べたらね・・・」という感じでした。このように肉体的なキツさえの限界値が広がり、また「ここまでは大丈夫」と設定する限界値が高くなりました。

 

第三に体の生理的機能の回復・改善です。

 表現することが難しいのですが、人=動物として当たり前の体の機能が戻ってきたように感じています。具体的にはまず汗をかくようになりました。汗をかくのは当たり前に思われるでしょうが、研修開始当初はすぐ心拍数が上がり息も切れるものの、どうしても汗が出ず体に熱が籠ってしまっていました。長年の運動不足や PCとにらめっこのオフィスワークの日々で、発汗という当たり前の機能すら弱っていたのだと思います。その後、種々の屋外活動を続ける中で 2~3週ほどでジワジワと汗が出始め、その後しっかり汗が出るようになりました。今ではウオーキングでも気持ちの良い汗をかいています。大学生のころは普通に汗をかいていた記憶がありますので、約20年ぶりに発汗機能が正常に働くようになったのだと感じています。

 また軽くですが、朝食や昼食を摂れるようになりました。私は、朝食は中学生の頃には既に食べず、社会人になってしばらくしてからは昼食すらとらなくなりました。夕食一食のみという乱れた食生活を数年続けた結果、朝昼はお腹が空かないどころか、無理に食事をすると気持ちが悪くなることすらありました。いくらの郷ではしっかり体を動かし、少しずつ昼食を摂ることから始めました。西岡さん・津田さん・牧田さんから、少しでも食事を取りやすいよう配慮してくださり、毎日のように根気強く声かけもしていただきました。(閑話:「ご飯食べましたか?」「Sさんもこれ食べますよね?」(にっこり!!)卒業時には、朝食にヨーグルトなどを、お昼はおにぎりを食べられるようになり、現在も軽くですが一日三食を続けています。

 最後に睡眠の改善が見られました。私は子供のころから既に睡眠が乱れていた記憶がある筋金入りの睡眠不良です。治療においても睡眠の改善には苦心し、種類や組み合わせを変え投薬を受け、何とか睡眠時間を確保する有様でした。いくらの郷に通い始めてもなかなか睡眠には変化が現れなかったのですが、遂に3か月目頃から徐々にですが眠りに変化が見られるようになりました。先ず、眠りが深くなった感覚があり、そして客観的に時間・回数ともに早期覚醒が少なくなって行きました。妻にも確認したところ、夜中の寝返りや動き・寝言が明らかに少ないとのことでした。自分自身、睡眠に関しては「少しでも変化してくれたら・・・」程度にしか考えていなかったため、まさか睡眠が改善するとは信じられず、とても嬉しく思っています。

 

 次に精神面の変化について述べていきます。精神面では「感じ方と考え方」両方に変化がありました。第一に肉体的な強さが増したことにも関連しますが、精神的なキツさ・負荷への耐性が増しました。 

 療養中、また体を動かさなくなって久しい私にとって、連日の屋外作業は心身ともに厳しいこともありました。加えて草刈り機など、なかなか上達しない作業もありました。このような時でもすぐに投げ出さず、一つずつやり続けることで、少しずつ負荷に強くなっていった、負荷の感じ方が良い意味で鈍くなっていったのだと思います。

 また、作業の中にはどうしても苦手なものも出てきます。時に苦手だと初めて気付くこともあります。活動の一つとして、6月上旬に近くの山に登りました。トレッキングの経験はあり山は嫌いではなかったのですが、その山は途中から登山道がなく、急傾斜を直登する必要がありました。2/3ほど上り、木々が切れて斜面から崖が見えた瞬間、恐怖心で体がすくみ動けなくなりました。薄々は感づいていましたが、どうやら私は高所恐怖症だったようです。これまでの私でしたらそこで直ちに下山ですが、その時は理事長さんに文字通り、手取り足取りで助けていただき、何とか登頂することができました。当然、山に登れば次には恐怖の下山が待っていますが、これも這う這うの体でしたが無事に下りることができました。辛いこと・不得手なこと・苦手なこと、皆様に助けて頂きながらも、これらを何とかやり遂げたことで「心がくじけない」とまでは言えませんが、「ちょっとくじけたけど、それでも何とかする!」という精神的な心の強さが今までより育ったものと感じています。

 

第二に「楽しみながら物事を行うことは悪くはない。」と考えられるようになりました。

 これまで私は完璧主義の傾向があると指摘されることが多々あり、母や妻からもそのように評されてきました。自身としては元来不器用なため、物事を正確に・慎重に進め・とにかく形にすることを最優先にしているだけなのですが・・・。ただ確かに、趣味以外の場面で、何かをしていく過程で楽しむということは余りありませんでした。

 いくらの郷での作業は初めてのものが殆どで、当初は緊張も大きく、特に道具を使うときはおっかなびっくりでした。当然精神的に楽しむ余裕はなく、また、楽しんでするという発想自体がありませんでした。しかし毎日しばしば午前と午後でも、研修内容を変え様々な作業をいろいろな場所・環境下で体験させていただきました。今思いますと、所長さん・理事長さんは私が飽きないように、また得意で取り掛かり易い作業が何かを探りながら、配慮されて研修を進めておられたのだと思います。そのお陰で作業を重ねるうちに少しずつ「楽しい」「できた!」という感情が湧いてくるようになりました。現在では何か義務的に、または業務として取り組んでいる物事においても、その過程や結果の中で小さな楽しみや面白さを見つけ、また以前より完了した時の達成感を強く感じるようになっています。

 

第三に、初めてや未知の物事・環境への感じ方と、これらに取り組む姿勢が変わりました。

 私は元々、見知らぬ物事や環境に対して、強い不安と緊張や時に恐怖心さえ感じる気質があります。私のメンタル面での最大の問題点たる元凶であると自認しています。しかし潜在的に知らない・分からないというものへの警戒が異常に強く、その上、元来の不器用さから新しい物事に取り掛かる際に、非常に苦心してきた何十年の経験がこの機質の元になっています。この強敵がどのように変化してきたのか。結果を先に書きますと、妻には「あら!初めてするときは石橋を叩いて叩いて、叩き壊して『ほらね』と言うタイプだったのにね。」友人から「最近、えいやっー!でやることが増えた?」などと言われ始めています。当然人間の性質ですから、全てが変わることはありませんが、新たな・未知の物事でも異常な不安や恐怖は感じないようになり、また、とりあえず始めて、中を見ながらやっていこうと考えるようになりました。

 

人の体や心、特に深い部分にある感じ方や考え方が変化するには、非常に大きなエネルギーが必要だと思います。いくらの郷では最初から毎日皆さんが温かく迎えてくださいます。所長さん・理事長さんは日々いろいろな話しをして下さいます。その中には仕事の大先輩としての貴重なアドバイスもあります。首長さんが考え感じてこられたことを、あのようにお伺いできる機会は先ずないと思います。所長さんは作業の前後でその理屈や理由についてよくお話しして下さいます。所長さん・理事長さんは、何事もやって見せて、一緒にやってみて、やらせて見せる型で指導して下さいます。青砥さん・森岡さんは、いつもここぞという時に手助けしてくださり、視点を少し変えたアドバイスもして下さいます。指導員の皆さんはいつも見守って下さって、サポートをしてくださいます。心の癒しです。

  お寺さんでの禅は、難しく考えずに自分の心に近づくきっかけとなり、またヨーガやエネルギー療法などの統合医療では、人体の不思議を感じつつ健康状態の向上に繋がりました。また入蔵集落の皆様も気さくに、たくさん話しかけて来てくださいます。これらいくらの郷の皆様の「人の力と自然の力」が全て合わさって、その大きなエネルギーを与えて下さいました。

 いくらの郷での日々・生活は、「体と心のずれ」を修正し、自身でも忘れていた元の自分に戻してくださったものでした。本当にありがとうございました。


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