嬉しくて寂しい分れの春

 MOAの山田さんが尾形光琳の国宝「紅白梅図屏風」のレプリカを飾って、いくらの郷でお茶会を計画してくれました。誰でも無料で参加できるという事で、入蔵集落にチラシを配ってご案内をしました。

国宝3点、重要文化財67点、重要美術品46点など3500点以上を所有するMOA美術館の紹介なども行われました。

 レプリカとはいうものの、技術が良くなって本物以上の迫力ある紅白梅図を、山田さんの解説で聞き入っています。美術品などに造詣が深く様々な観点から説明がなされます。骨董品収集が趣味の理事長との話がはずみます。N君が近々に「卒業」するので記念に良い催しとなりました。

 

 場所を変えて鑑賞してみると、これはこれで迫力があります。いくらの郷は昔の造りなので、本間のニ間に一杯の紅白梅図屏風です。丁度この時期、いくらの郷では梅の花が満開ですが、いやが上にも我が故郷への愛情が高まってきます。 鑑賞するにも時期があるという事ですね。

 床の間には「紅白梅図屏風」にふさわしく、紅白の梅の花が活けられました。清楚な椿の一輪も活けてあり、早春にふさわしい生け花でした。

 さらに掛け軸も明治から昭和にかけて活躍した文化勲章の「川合玉堂」の「春色駘蕩」が飾ってあり、いやがうえにも茶会にふさわしい雰囲気が醸し出されています。奥多摩の雪解けの急流のなか、萌黄色にかすかに色づき始めた景色を描いて、まさにこの時期にふさわしい掛け軸でした。

 山田さんの奥様が着物姿でお茶を運んでくれました。何から何まで優雅な事です。

 皆さんが二服づつ、うろ覚えの作法で頂きました。茶器を眺めると春が一杯の道具で心配りに感心しました。

 茶の湯の事はあまりよく分からないのですが、中心的な役割を果たす茶器も見事なものが集められており、スライダーで見て頂きたいと思います。

 しばし紅白梅図を眺めています。真ん中の川は銀色だったものが、年を経て独特の色合いに変わったものだそうです。

 こうして無事にお茶会は終わりましたが、このような田舎でレプリカとは言え国宝の「紅白梅図屏風」を見ながら、優雅にお茶を頂くなど想像が出来ない事でした。

 N君も卒業を迎えて良い思い出になったことと思います。また、いくらの郷に係る応援団として、さり気なく活動を手助けして下さる、MOAの皆さんの温かい志を感じて感謝の言葉もありません。


 大豆の始末に困っていたところ、入蔵のおばさん方が100才体操を行う会場にいくらの郷を使用する事となり、お礼に大豆を落として頂きました。

 このようにストーブの前で良く乾かしてから、叩いて皮はぎします。今日は外が雨なので、内作業として乾いたものを研修生に手で剥いでもらいます。

 新しくMさんが通ってくることとなりました。以前から通ってくるN君と一緒に作業をしています。

豆の皮はぎの休憩時間には、N君がMさんを伴って作業所にやってきました。歳は下でも通いで先輩ですから、ちょっとした説明をしていました。今月で「卒業」するN君は作業所で「寿老神」の彫刻に懸命です。

 

 


 3月7日、いよいよ今日は2年半通ってきたN君の「卒業」式です。

最後に自分で彫った「寿老神」に仙田和尚が魂を入れる入魂式を行いました。袈裟を着て本格的な入魂式になりました。N君のお母さんにも来て頂きました。N君と一緒に研修したKさんやHさんも駆けつけてくれました。

 

 

  参加者全員が神妙に手を合わせて、祈りを捧げています。

それぞれの思いを込めての入魂式でした。所長はこの像が陰に陽にN君を守ってくれるようにお祈りをしました。

 この寿老神は所長の家にあったものを見本に借りてきて彫ったもので材料はヒノキ木です。一年以上もかかったのでしょうか。雨降りや仕事の合間にコツコツと彫り上げました。お顔の表情が実によく出来ており、これからN君といつも一緒にいて、嬉しいときや悲しいとき等に大きな力を発揮して守って下さると思います。

 N君の卒業を皆の食事会で盛り上げようと、前日から芋の子の皮はぎをしました。自家製の水車で1時間もすれば、泥だらけの芋の子もきれいになります。イノシシ汁材料の用意に準備しました。

 入魂式が終わったら早速昼食会に移りました。所長の音頭で乾杯して始まりましたが、今日は12月まで指導員をしてくれた牧田さんも参加してくれました。そして所長の奥さんが、昨夜から腕によりを掛けて作ったイノシシ汁の披露です。美味しくて何杯もお代わりする人もいました。

 食事が終わると仙田指導員がギターで、Kさんが太鼓を叩いて、N君の歌を盛り上げます。人前で歌えるほどに度胸もついて、大したものです。このようにして巣立っていくんだなあと妙に感心します。

 

  N君からスタッフ一人ひとりに、メッセージ入りのハンカチをプレゼントして頂きました。所長には特別に感謝の言葉と共に、黄色なバラの花束を送って頂きました。色々な思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、嬉しさの余り言葉にならなくて、年甲斐もなくこみ上げてくるものを抑えるのに一苦労しました。

 仙田指導員が送る言葉を演奏しています。やはり別れの歌はどうしても湿っぽくなりますね。この後、いくらの郷のスタッフ一同より、名前入りのマグカップやペンケースを記念に贈りました。

 カリカリ梅を作っている婦人の皆さんが「餞別」をしてくれました。集落の皆さんからも可愛がられていたのですね。


所長さんへ

 いくらの郷に通所して約二年半の間、本当にありがとうございました。通う前は人との間に壁を作り、自分の可能性に限界を決めていました。チェンソーを使って木を切ったり、草刈り機を使って草を刈ったり、初めての体験で好奇心が湧き上がって来る感覚を久しぶりに感じたことを覚えています。祠づくりはいくらの郷の経験の中で一番誇りに思っています。やった事無い事でも所長さんが「やろう!」と仰ると出来る気がしてきます。ノミやノコギリなど使い方も分かってなかった頃に、真摯に向き合って教えて下さってありがとうございました。また遠藤大工さんや集落の人と一丸になって協力することで、大きな力を生みだせることも知りました。所長さんの行動力やありがたい言葉を見習って頑張っていきます。二年半本当にお世話になりました。ありがとうございました。                            

                                        Nより

 


 N君へ 

 2年半も通ってきたので思い出も沢山あります。やはり祠を作って部落総出で遷宮を行ったことが

一番の思い出でしょうか。「懸魚」を一生懸命に彫刻していた姿が忘れられません。高齢者と嫌な顔もせずに付き合ってくれたのですから、お礼を言わなければならないのはこちらの方だと思います。

 それにしても高卒資格は通信教育で取り、4年制大学にまで合格したのですから大したものです。「学校に行かないで困っている」と泣きながらご相談されたお母さんの深い愛情が、この子を一人前にした影の功労者だと思います。

 この上は大学で大いに学び大いに楽しみ、いくらの郷での経験を色々な処で活かして、随所で主となって欲しい、一人前の社会人として順調に羽ばたいて行ってほしいと願っています。

                           いくらの郷 所長ほかスタッフ一同より


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